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時間は少々遡り、
はるか遠い世代からの縁にて結ばれていた彼らが再会成したそのまま、
事情の刷り合わせをしていた場にて。
一体なんでまた、
こんな行き当たりばったりな行動を起こした菊千代なのか、
そこを訊かないとまだ納得できぬと言を重ねた七郎次だったのへ。
確かにと自分でも認めたか、
大雑把な態度物言いをしていた遠来の女丈夫こと、
西の草野のご令嬢、
言葉を捜すように一旦口をつぐんでから、
「勘兵衛がよ、アテになる伝手を知らねぇかと思ってな。」
そんな言いよう、ポツリと呟いた。
三華が絡んで事件になったおりの写真の中に、
こちらの壮年という懐かしいお顔を見かけ、
こいつまで転生してやがったかと思い出したのは昨年の話だが。
警察関係者だというのは、親戚の集まりで何となく知ったこと。
そしてそれをこのたびは当てにした彼女であるらしく。
「その、さ。
故売屋っていうのかな、それへの口利きが出来んじゃないかって。」
知り合いのバイオリニスト…の卵がいて、
その子が大切にしていたバイオリンが盗まれたらしく。
「もうじきコンクールの学年別予選会があるらしいのに、
それがなくなったって落ち込んででさ。」
そういうことなら警察の、
しかも辣腕と噂の警部補に訊けば何とかなるかも?
「そりゃまた、思い切って斜めなことを。」
呆れたようについこぼした平八へ、
そこはカチンと来たものか、
何だよその言い方といきり立った菊千代だったが、
「だって、普通は被害届を出して捕まえてもらうもんでしょうに。」
「それじゃあ間に合わねぇから、怪しい筋に心当たりはないかってだな。」
「まあまあ二人とも。」
心情は判らなくもないこともないと、
ややこしい引き分け方をした七郎次だったのへ、
ここで揉めても詮無いと我に返った二人も矛先を納めはしたものの、
「でもでも、肝心な連絡のつけようもない。」
菊千代がちょっぴり愚痴るようにそうと付け足した。
だって、七郎次とは知己らしいが、
「モモタロウ自体が俺を思い出せてないらしいからよ。」
勘兵衛自身がさっき言ったように互いの名前くらいは覚えていよう。
その上で思い出せてもいたのなら、
何か言ってきている筈じゃあ?
俺の側が思い出しちゃあないと思って遠慮をしているものかなぁ?
そうでないにしたって、
もしかして勘兵衛も思い出してはくれてないかも知れぬ。
だがだが、日数も限られていることだけに、
悠長に待ってもおれぬ。
打てる手はいくらでも打ちたくて、
今回の上京にかこつけ、
こちらに来て…、
「そのまま問題行動を起こし、警視庁に乗り込んでやろうと」
「あのね、菊千代。」
そういうときは、そのまま正攻法で警視庁に乗り込んだ方が早いってと、
言いかかった七郎次だったが、
「でもって、あっさり釣り出されましたか勘兵衛さんが。」
「う……。」
平八の言いようももっともな話であり、
もしかしてこの少女、前世以上にツキに恵まれているのかも?
ぐうの音もでない七郎次に代わって、
「でも、それでも腑に落ちないことがまだあるなぁ。」
「???」
やはり不審だと、今度は平八が言を継ぎ、
「だから。
勘兵衛さんってアテが東京にいるからってだけで、
わざわざ京都から出て来たのが。」
事件だの騒動だのの報道記事で
七郎次と一緒にいたのを目にしてという順番なら、
親戚でもあるのだ、七郎次へそれとなく連絡するとか、
まずはそういうコンタクトを取ってもよかったはず。
こっちが前世での縁を思い出してないかも…なんてのは関係ないだろうし、
「繁華街を歩いてたら見つかるかもという方法より、
よほど確率が高い…ってのは、
こうとなってはあんまり説得力がありませんが。」
だよねぇ。(苦笑)
「それでも。
こうまでの遠距離を わざわざ伸して来たってのは、
単なる大胆さで出来ることじゃないと思うのですが。」
いくら高校生でも、いやさ、高校生だからこそ、
無謀の桁とカラーがどうにも不整合に思えてならぬと、
段取りの順番のあまりの乱脈さが気になったらしい平八が、
そこを話してもらえぬかと、鋭く問いただしたところ……、
「う…………。」
それまでの闊達さが急停止して口ごもり。
おお、いきなり様子が変わってないかと、
七郎次や久蔵のみならず、勘兵衛までもが おやと眉を寄せたほど、
それは判りやすくも急変してしまった菊千代であり。しかも、
Trrrrrrr…………、と
携帯電話へだろう着信音が。
着メロ設定をしていないところもまた、
彼女らしいといや らしかったが。
「あっ、ちょっとタンマ。」
あわわと慌て、
パーカージャケットのポケットから取り出した携帯へ出たものの、
「……あ、ああ、俺だ。
……うん。…そか、そっちも着いたんか。」
慌てた割に、会話の口調は朗らかで、
しかもしかも、
“…………お?”
会話中となったお人へのエチケットくらいは
わきまえている顔触れではあったが、
それでもついつい注意は向くというもの。
あくまでもさりげなく見守っていたのだが、
おや?と居合わせた4人が4人とも 何かしらを感じ取っており。
“なんか。”
“…なんというか。”
“ほほお。”
「何でテーブルをつつくのだ。」
これ久蔵殿と、七郎次が慌ててお口を封じたが、
あんまり間に合ってはおらず。
「あ………。//////」
指摘が聞こえたその途端、
真っ赤になった辺り、相変わらず判りやすい御仁であることよ。
そう。
電話に出た菊千代お嬢さんたら、
そこまでの豪快なあれこれはどこへやら。
会話の口調こそ変わらぬままを装いつつ、
されど手元は…何だか愛らしくも、
テーブルの空いてるところを人差し指の先でグリグリと撫で回しており。
これってどう見ても含羞みの所作ではなかろうかと、
皆して感じてしまったワケで。
「…あ、いやいや。何でもないんだ、うん。」
慌てはしても会話は続けたいらしく。しかも、
「心配しなくていい。
お前は明日の本番のことだけ考えて集中してな。」
何だかワケあり風の言い回しが飛び出したため、
――― おや これは、と
七郎次にだけ特化している約一名を除き、
察しのいい顔触れが揃っているだけあって、
これだけの要素で“はは〜ん”と あることへと感づいた。
「…もしかして、
お電話の相手ってのが彼女の上京の理由でしょうか。」
「みたいですね。」
お顔を寄せ合い、
こそそと確認し合っているのが白百合さんとひなげしさんなら、
「…訛りに覚えが。」
ぼそりと呟いたのが紅ばらさん。
え? 何なに久蔵殿、お声が聞こえたの?
……かすかに。
訛りって…まさか。
「………お前らなぁ。」
さすがにこうまでの頭数でごそごそ囁かれると、
ご当人へ聞こえてもしょうがない。
がなり声を通話の相手へは聞かせたくなかったか、
モバイルを頬から離したその拍子、
【 あ、ああのっ、
おら、予備のでも大丈夫だから。
ちゃんと弾いてみせっから。
だから菊千代さん、お願げぇだ、無茶はしねぇでけろ。】
どこか頼りなげなトーンとか細さの声が、
離した方向にいた勘兵衛や久蔵の耳元に確かに聞こえ。
「これは……。」
多くは語らずに留めた勘兵衛の続きのように、
久蔵が付け足したのが、
「……………コマチ。」
途轍もない爆弾発言だったりしたのであった。
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*なんか勢いのみで綴ってますね。
後で修正入るかもです、すいません。

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